東京地方裁判所八王子支部 平成9年(ワ)2390号 判決 1998年5月07日
原告
川口靜男
ほか一名
被告
峯岸運送株式会社
ほか一名
主文
被告らは原告川口靜男に対し、各自一三〇〇万二四八九円及びこれに対する平成七年九月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
被告らは原告川口つぎ子に対し、各自一三〇〇万二四八九円及びこれに対する平成七年九月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。
この判決は、主文第一、二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは原告川口靜男に対し、各自一六〇〇万円及びこれに対する平成七年九月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
被告らは原告川口つぎ子に対し、各自一六〇〇万円及びこれに対する平成七年九月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、交通事故で死亡した被害者の両親が加害車両の所有者及び運転者に対し、逸失利益及び慰謝料などの損害金の支払(但し、一部請求)を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 本件事故の発生
(一) 事故の日時 平成七年九月二四日午後一〇時三七分ころ
(二) 事故の場所 福島県岩瀬郡鏡石町大字久来石字愛宕山六番地先東北縦貫自動車道上り車線一九〇・八キロポスト付近路上
(三) 加害者 被告地挽(加害車両を運転)
(四) 加害車両 大型貨物自動車(大宮一一き三四三三号)
(五) 被害者 亡川口博(被害車両を運転)
(六) 被害車両 普通貨物自動車(練馬四六ほ九二〇号)
(七) 事故の態様 被害車両が自損事故で停車中、加害車両が一一五キロメートルの速度(制限速度八〇キロメートル)で被害車両に追突したため、亡川口博は、同日午後一〇時四五分、多発性外傷により死亡した。
2 責任原因
被告峯岸運送株式会社(以下「被告会社」という。)は、加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたから自賠責法三条に基づき、被告地挽は、過失により本件事故を発生させたから民法七〇九条ないし七一〇条に基づき、原告らに生じた後記損害を賠償すべき責任がある。
3 相続
原告らは、亡博の両親であり、同人に生じた財産上の地位を法定相続分二分の一の割合で相続した。
4 損益相殺
自賠責保険から三〇〇〇万円の支払を受け、原告ら各自一五〇〇万円宛損害金に充当した。
二 争点
1 損害額
(原告らの主張)
(一) 葬儀費用 一二〇万円(原告ら各自六〇万円)
(二) 逸失利益 四六〇〇万円
男子労働者平均賃金(平成八年センサス)五六七万〇一六〇円を収入の基礎とし、生活費五割、三六年間ライプニッツにより現価を算出
(三) 慰謝料 二六〇〇万円
(内訳)
亡博 一〇〇〇万円
原告ら 各自八〇〇万円
2 過失相殺
(被告らの主張)
本件事故は、亡川口の危険な運転行為に起因する自損事故を原因として発生したものであって、被告地挽としては事故発生を回避することがほとんど不可能であったから、大幅な過失相殺が認められるべきである。
第三争点についての判断
一 損害額について
1 葬儀費用 一二〇万円(原告ら各自六〇万円)
右金額が相当と認められる。(弁論の全趣旨)
2 逸失利益 三〇八〇万四九七八円
亡博は、高等学校卒業後東京電子専門学校を卒業して昭和六〇年に訴外株式会社フォトライフに入社し、本件事故発生時まで約一〇年間同社に勤務し、そして、本件事故発生の前年である平成六年度の亡博の給与額は三七二万三三七六円であった。(甲一八、弁論の全趣旨)
そうすると、亡博は、本件事故時は三一歳の独身男性であったから、生活費割合を五割とし、三六年間のライプニッツ係数は一六・五四六八であるから、逸失利益は三〇八〇万四九七八円(円未満切捨て)となる。
3 慰謝料 二二〇〇万円
本件交通事故の態様、これによって被った被害の重大さなど本件にあらわれた諸事情を総合考慮すると、慰謝料としては、亡博は一〇〇〇万円、原告らは各自六〇〇万円が相当である。
二 過失相殺について
証拠(甲四、八、一一、一三ないし一七、二二ないし二六)によると、次の事実を認めることができる。
本件事故現場は、東北縦貫自動車道上り車線上で、須賀川インターチェンジの中間に位置し、矢吹インターチェンジ方面に向け下り約二パーセントの勾配、緩い右カーブとなっており、最高速度八〇キロメートルに規制されており、交通量は比較的閑散で、見通しは良く、付近には街灯または案内板などなく、夜間であったためにかなり暗い状態で、また、降雨直後であったために路面は湿潤していた。
亡博は、片側二車線道路の第二通行帯を時速約九〇ないし一〇〇キロメートルで直進進行中、前方第一通行帯を走行していた乗用車を追い越す機会を窺い、数度試みたものの、その都度右乗用車が第二通行帯に寄ってきたため断念していたものの、遂に第二通行帯から追い越しを試みたところ、右乗用車が第二通行帯に寄ってきたので、慌てて右にハドルを切ったために、被害車両前部を中央分離帯に衝突させ、第二通行帯を塞ぐようにしてほぼ真横になって停車させた。
被害車両の後方第二通行帯を時速約一〇〇キロメートルで車両を運転して進行していた訴外小川は、進行方向前方に被害車両を認めたが、黒っぽいかなり大きなものが置いてあるように見えたので、シートなどが落下しているものと思い、そのまま減速することなく進行したところ、直前で被害車両であることに気付き、慌ててハンドルを左に切ったため、被害車両との衝突は避け得たものの、道路左側のり面に衝突しそうになり、慌ててハンドルを右に切ったために中央分離帯に衝突した。
その直後、被告地挽は、第二通行帯を加害車両を運転して時速約一一五キロメートルで進行中、進路前方約一二五・六メートルの地点に被害車両を認めたものの、黒っぽい大きな物体に見えたことから訴外小川と同様シートなとが落下しているものと考えながらアクセルペダルから足を離し、ブレーキペダルに足を乗せたままの状態で減速することなくそのまま進行し、事故現場手前約六六・一メートルの地点で右物体が被害車両であることに気付き、急制動の措置をとったが、被害車両に衝突した。被害車両が自損事故を起こしてから本件事故発生までの時間は約二〇ないし三〇秒で、亡博にとって被害車両を移動することも、衝突を避けるための安全措置を執るための時間的余裕もなかった。
右認定事実によると、被告地挽は、進路前方約一二五・六メートルの地点に黒っぽい大きな物体を認めたのであるから、これが被害車両であることの確認ができなかったとしても、安全確認のために直ちに減速措置を執り事故の発生を未然に防止すべき注意義務があったのに、これを怠り、漫然と制限速度八〇キロメートルのところこれを遥に超えた一一五キロメートルで進行して本件事故を発生させたというのであるから、被告地挽の過失責任は重大であるといわなければならない。
他方、亡博は、自損事故についての安全運転義務違反の過失責任の有無については明らかではなく、本件事故自体については、自損事故直後のことであって、被告らの主張する三角表示板の設置などの安全措置を執るだけの時間的余裕があったとは認められないのであるから、この点についての過失責任を認めることはできない。
したがって、この点に関する被告らの主張は採用しない。
三 損害の補填
自賠責保険の支払と充当関係は前述のとおりである。
四 弁護士費用 二〇〇万円
原告ら各自につき一〇〇万円が相当である。
(裁判官 林豊)